99年の愛

  • JAPANESE AMERICANS#2#3
  • まとめて。
  • 長吉がともと結婚し一郎を授かり、ようやく親子でもってアメリカの地で根を下ろして暮らしていけるのか、という一話。
  • 2話に入り、長吉は二男二女と妻の5人でひとかどの農場を経営するようになり、その長男である一郎へと視点が移る。
  • タイトルである日系の男性である一郎の暮らしや在りかたが描かれていく中で、一話の長吉が開拓精神と勤勉さにより居場所を得てきたのに対し、その息子である一郎はアメリカという地でどう生きていきたいのかということをより考え、農場だけでなく法律を学ぶために大学への進学を希望したりと父とはまた違う意識をもっている人物であることが描かれていく。
  • 橋田さんの脚本は演じる役者に沿うように書かれるからか、長吉が草なぎ剛から中井貴一に成長したところで1話よりかなり凝り固まったある意味頑固な性格が強調されている部分があり、地続きの話の登場人物としては少し違和感を感じてしまった。無論、守るべきものが多くなり、より自分の生活や暮らしをよりよくしていきたいという向上心や長吉の持って生まれた性分であるという描写はそれなりにはあったとは思う。
  • 日本人の子供でありながらアメリカで生まれ、アメリカの国籍を持つ人間がどのように戦争へと向かう中でそれでも自らを、そうして家族を守り生きていくのか。1話で築かれた土台を元に描かれていく物語は、より過酷で厳しいものへとなっていく。
  • 耐えるべきところと、訴えるべきところ、というのが随所に出てくる。しかし、結局のところは耐えるべきところがほとんどで、その中でのやるせなさや無力感といったどうしようもなさというものを受け止め、背負う一郎は、その時々の選択をいつも周りの家族と長男であるという軸をぶれることなく見据えた上で判断していく。母であるともや弟である次郎、恋人のしのぶの考えや生きかたもまた、それらに基づいたものではあるのだけれど、一郎はその中でも最も難しい判断を迫られることが多い。それを観ていると、現代の日本の家族はもっと個人主義であり、それが例え親子や兄弟であっても必要とあらばあっさりと離れることが出来る社会との差異をふと思い起こさせた。
  • 2話で最も印象的だったのは一郎の恋人であるしのぶの決意の船からの飛び込みだったが、3話もいちばん面白かったのはまた長吉の次女さちの逆境の中での強固な自己主張であり、これらは偶然か必然か戦争とあの時代を描く上であまり強調されることのない女の生きかただった。どちらも壮大な物語で、そもすれば流れだけを追う展開がどうしても多くなる中でとても印象深いシーンであり、登場人物のらしさというものが強く感じられたと思う。
  • そうして、3話に於ける一郎の合衆国への忠誠を誓うことにするというしのぶへの語りは一郎という人間が何を思い、何のために生きるのか、そうしてそのためならば選んだことを後悔することはないと語るくだり。何よりも自分という存在があるのは両親があってのことである、ということ。それに大げさに感謝するでもなく、だから当然であるという流れ。今の世の中の中でこのくだりを不自然に感じたり、大げさに感じることそのものがある意味で恥ずかしいことなのだと橋田さんは訴えたかったのではないか。
  • これこそが、この物語の大きな支柱となっていると私は思う。
  • 自己責任という言葉があるが、この一郎の決心はそれより重く、大きく深い。
  • 3話で登場した笹野高史演ずる庭師の日本人感、アイデンティティの表し方はよくあるものではあるのだけれど、そこに二世である一郎たちの思いがことあるごとに重ねられる辺りが興味深い。
  • どちらの主張も間違いではないのに、どちらかを選んでいかなくてはならないという状況自体のおかしさ、ままならなさに戦争の本質が見え隠れしているように思った。
  • 大泉洋演ずる二世側の交渉人役の建前だけではない内面を含めた人物像がもう少し見られればよりよかったのではないか。