99年の愛

JAPANESE AMERICANS#4#5

まとめて。

  • 一郎の入隊と戦時下におけるアメリカの暮らし。日本と違って、不自由は多々あるものの国力の圧倒的な差異で、アメリカでは最低限の生活は出来ているせいかそういった意味での悲壮感はない。
  • しづとさちの姉妹が広島と沖縄に、という設定はいくら何でも厳しいと思ったが、橋田さんが戦争というものを多角的に描く上で盛り込みたかった要素なのだろう。物語なので、中尾明慶演ずる弘という二世の米兵通訳という人物がいることにより、奇跡的な繋がりと消息が伝わり続けるという不自然さも仕方のないところなのだろうか。弘とさちの関係は丁寧に描かれており、当時の状況下においての沖縄からの移動やその後のしづとさちの再会などといったくだりは無理があるものの演じ手の力量により何とか観続けることが出来た。
  • 前後するが、442部隊が編成されるまでの一郎の長い軍事訓練や、兵役につくことにより、当時の二世が戦時下においても新婚旅行が出来たり、自由がある程度は確保されていたということに驚いた。この辺りの一郎としのぶ夫妻のアメリカ人夫人との交流なども如何にも橋田脚本らしい都合のいい情の表現ではあると感じたが、物語上で救いになっていたとは思う。しのぶの台詞でシアトルは以前から反日感情が強かったが、戦争になってますますそれが強くなっていた、と言っておきながらここまでとは思わなかったなどと真逆のことを言い出すのはとても違和感があった。
  • 5夜に亙る物語とキャラクター造形のずれというものが終盤2話でひっかかったところが多かったように思う。特に草なぎ剛から中井貴一へと代わった長吉は、FBIから拿捕され、捕虜として収容されていた場所での暮らしぶりがまったく描かれていなかったせいか、より頑なな国粋主義者になっていて、ことあるごとに"神の国"と日本を崇めるような発言をくり返し、家族だけでなく収容所の人々にアジテーションする場面が何度もあった。長吉という人がそれまで何があっても黙って耐えて生きてきた人間であるという描写がそれまでの3話では何度もあったことを観た上では帰って来た長吉の変貌振りにもう少し何らかのフォローがあってしかるべきだろうと思った。
  • 4話に於ける442部隊の具体的な戦闘シーンのリアリティは真に迫るものを感じた。彼らの訓練から状況、2世のみで組織された彼らが結束力と決意をもって隊となしていたのかが丁寧に描かれ、テキサス大隊を救うまでの流れは同志を庇って死ぬ一郎の最期で終わるこの物語でもとても重要なシーンだったと思う。一郎の死により、残された家族の戦争末期から終戦、そうしてそんな中からの常に上を見つめて生きていくという、これもまた橋田脚本の独特のカタルシスでもって彼らは生活を立て直し、成功者と称される地位につく。
  • 物語のリアリティと架空の登場人物の生きかたを役者が演じることにより生まれるリアリティは必ずしも合致しない。その差異が拡がるとそこに醒めた感情が出来てしまう。この物語は数世代にも亙るあるひとりの若者が別天地に赴くことにより人と出会い、地に立ち生きていくことで繋がりを持ち、そうしていつしか絶えたとしても繋がりをもった人たちは生きていくという今ここにいる私たちと同じ、ごく当たり前の、しかしとても語りつくせないものを描きたかったのだろう。
  • 5日に亙りまともに全てを観た私だが、この物語の言いたかったことは解るが、納得は出来ない。
  • しかし、重厚で永い、永い物語に携わった全ての人たちにはお疲れさまでしたと言いたい。