スチームボーイ


何と言いましょうか。
スケールの大きなような、それでいてとても
ちいさいような、結局のところロンドン万博を舞台に
祖父と父が親子喧嘩するのを止めようとする孫息子の
お話です。えええ。いや、でも要約するとそのとおり。
19世紀の終わり、蒸気機関の発達により飛躍的に進歩
しつつあった科学力は、あらゆる可能性と未来への
大きな期待を含んだ夢、そのものでした。その夢の力の
象徴とも言うべきあるエネルギー動力装置の発明を巡り、
発明家同士、或いは国や企業同士が争うことになります。


大友さんの『らしさ』を何処に見ているかで
大きく評価が別れそうな作品です。
蒸気機関の発達によりその動力を活かした独創的な
乗り物やら発明器具が闊歩し、活用されている描写が
かなり微妙なんです。19世紀に実際に行われた万博で
実際にはあり得なかった発明品が動き回る。
現実と幻想のせめぎ合いの中に、更に今、私たちが
生きている現在で考えさせられる戦争の描写が
混ざってきたりして、なかなか物語の中に入り込み
にくいのです。科学!発明!知らない機械!便利な道具!
ワクワク!の方向に飛び込みにくいのです。


”手を使って造れる道具が動くという感動”のギリギリの
段階が、多分、この頃までだったんじゃないかと思うのです。
この時代以降はもう解るひとにしか解らないものに機械や
道具はなっていて、誰からも遠いものになっていったような
気がするのです。もちろん、物語の中で出てくる機械や道具
なんて私には造れるはずもないのですが、人間が直に設計し、
ナットを付け、ボルトを締めるという作業の果てに完成した
それらが動くという不思議さと便利さに対する純粋な感心と
感動、引いては畏怖というものがこの物語にはたくさん
詰まっています。


自分の考えを持ち、判断して行動する。
この物語にはもうひとつの側面として、13才の少年が父や
祖父、或いは周りの大人たちを見て自分の中で物事の
白黒をつけていくという下りが出てきます。
その描き方にも多分、好き嫌いが別れるところがあるの
ではないかと思います。私はむしろ、同年代の少女との
やりとりの中で生まれる感情や感覚の方が面白いと感じた
ので、こちらをもっと掘り下げて欲しかったです。


映像や音楽、音声は本当に素晴らしいです。
出来ればそれらの環境が十二分に整ったところで観た方が
絶対に楽しいと思います。
私が試写会に参加した会場は画面がちいさく、明かりがやや
残っていたので解りづらいところがありました。


あと、しつこいようですがエンディングロールが終わる瞬間
まで絶対に席を立たずに観た方がいいですよ。