笑の大学


面白かったです。そして素晴らしかったです。
監督と脚本家の中にある不確かで確かなもの、が
完全に一致していないと出来ない妥協というものが
介在しない作品に仕上がっていたと思います。


元々がラジオドラマでそこから舞台になり、
今回の映画化に至った作品だけに収まり感というの
でしょうか、映画館だけで観られる、感じられるという
ある種のスケール感には欠ける部分はどうしても
否めません。
しかし、検閲官と劇作家の息詰まるやりとりの激しさは
時間を忘れるほど集中させてくれるものがありますので
テレビやDVDといった媒体ではなく、やはり映画館で
味わって頂きたいところです。


検閲官である向坂を演じる役所広司さんは堅物という
キャラクターにぴったりと沿う頑なさとまっすぐさ、
そうしてその中にある人間らしさをこれ以上ない
的確さで表現されていたと思います。
対する劇作家の椿を演じる稲垣さんは、今までに
観たことのない飄々とした空気感を放ち、それでいて
決して折れることのない若く、しなやかな感性を
秘めた難役をとても自然にみせてくれました。
台詞回しよりもそのやりとりの瞬間の息を呑むところ
とか、タイミング、表情のひとつひとつに心引かれ
ました。何というか、今までの稲垣さんの演技とは
一味もふた味も違うものが観られたような気がします。




この作品の最後にラジオとも舞台とも違うシーンが
入っています。
そのシーンはまさに映画ならではの映画にしか出来ない
方法で作られています。撮り方、見せ方、演技、音楽、
ロケーションも含め、本当に何もかもが映画という媒体の
ために作られたラストです。
これがスクリーンで観られるということに深い意義が
あります。是非。