「たま」という船に乗っていた


元たまの石川浩司さんの著書です。
たまというバンドを組み、活動していた期間の
ことを書かれたものですが、ほぼ20年近いその
時間を全て綴るというわけにはいかないからか
割とあっさりとした読み口になっています。
ご本人の文章は立ち上げてらっしゃるHPでも
その饒舌かつ特徴的な文体でもって膨大なコンテンツを
日々精力的に更新されていて、それに慣れていると
このご本はかなり外向けというか、お行儀の良い
造りになっているなぁと思いました。ああ、でも
ご自身のことだけでなく周辺の方々にとても気を
使われているところがそこかしこに伺える辺りが
とてもらしいなとも感じました。
バンドという形のある種の理想に近いものがたまには
あって、それはまったくの素人の1ファンである私では
なく、彼らを知る周囲のミュージシャンたちが少なからず
口にしていることであり、だからこそ解散ということに
なったのは今もなお強く惜しまれ続けています。
でも、この本を読むと、彼らがバンドという形以前に
それぞれ個人の表現者であるということをいちばん
大切にしているんだということがとてもよく分かります。
たまが続いていた最も大きな理由はそれぞれの音楽と
いうものをどんなときでもいちばんにしていたからなんだと
いう、まぁ、こう書くと当たり前のことのような、でも
バンドという形自体にこだわってしまうと見失いがちな
ものに気がつきます。自分のためにバンドがあるって
とても幸福で、きっと得難いものですよね。
だからこそ、一旦そうじゃなくないと悟ってしまったら
バンドでは居られなくなる。それは必然なんだと。


彼らを10数年観ていた私には、ある意味でとても痛い
ところともちろん、懐かしくて微笑ましいこともあって、
でも読後感としては何だか爽やかというか、穏やかな
気持ちになれるそんな本でした。
……何かラブラブだし。笑。いやぁ、何がびっくりした
ってそこなのかも。知ってたけど。いいな、ラブラブ夫婦。