小林賢太郎プロデュースPEPER RUNNER


芝居公演も第3弾ともなると、やる方も観る方も
慣れてきます。宛て書きの脚本、お約束のキャラ設定、
照れもなく正面から称えられる題材の職業。
これらを踏まえた上で鑑賞しないと期待外れだとか
拍子抜けしてしまうひともいるでしょう。
コント作家の小林さんと劇作家の小林さんは
少なくとも私の中では別人です。……別モノですと
言った方がいいかな。

つまり、ラーメンズ本公演よりかだいぶと心構えが
必要なところがあるのです。


今回の題材となったのは漫画業界です。
事前にそう聞いていたのにもかかわらず、出来上がった
ものを実際観て感じたのはどうにも中途半端だなあという
印象でした。編集者の苦労も漫画家の苦労もまたそれぞれの
職業としての意義、いちばん大事な『夢』の部分に至るまで
全ての描写が、一般人が想像するものの域を出るところが
まるでなかったというのが正直なところです。
売れる漫画の作り方、セオリーを説明して、それに基づいた
漫画を作ってみようとするところが物語の中程に出てくるの
ですが、その流れも当たり前なら結論も予想の範疇内。
そもそも芝居としてそういう展開になったということ自体に
驚きます。つまらなくて。ありがちすぎて。


そんな中でも気になるところはありました。
売れる漫画の作り方のセオリーを元に持ち込まれた
漫画をスラスラと読み解いてみせた編集者に対して、
件の持ち込んだ作家志望者が個人的な感想を聞かせて
くれ、と言ったところ。これは観ていて内心おお!と
思ったのですが、編集者が言葉に詰まるという場面は
あったもののその結論はありませんでした。
あと、漫画喫茶というものの在り方。それを商業的な
視点ではなく、漫画家に対しての敬意として触れる
ところがあって、それは実際漫画家として活動もされて
いる小林さんならではの意見なのだろうと思いました。


何かのインタビューでラーメンズのおふたりはかなりの
数の漫画雑誌を毎週読まれているという一文がありました。
そして小林さんは漫画家です。
これだけ恵まれた環境にあるひとが書くものですから、
『漫画って何で面白いんだろう』ってことを
読者であり作家であり、そうして編集部を取材できる
立ち場である小林さんに語って欲しかったというのが
叶わなかったのがとても残念なのです。
職業ものということであった3本の作品のうち、
今回がもっとも本質に迫ってくれなかった気がします。


文句ばっかり垂れてすみません。
しかし役者さんの個々のレベルは上がったと実感しました。
いわゆるてんどんと呼ばれる繰り返しのやり取りが
多様されたのも4コマ漫画のコマ割り的でしたし、
任意のふたりでのそういうやり取りが周りから
『切り取られる』ところなんか素晴らしく漫画に
なっている!と思いました。飽きてしまいそうな
しつこさを演じ手の技術で観客をコントロール
していたと思います。


それにしても、小林さんは漫画が好きなんでしょうか。
それだけでも教えて欲しかったです。