しゃばけ 畠中恵 ISBN4-10-146121-X


日本ファンタジーノベル大賞優秀賞受賞。
この賞を取った作品を読むのは、酒見賢一
後宮小説以来なんですが、これは第1回の大賞だった
ようですね。
虚弱な若旦那が妖怪コンビと猟奇事件を解決、という
宣伝文句にひかれました。最近とみに妖怪を扱った
小説や漫画が多いですが、シリーズ化していたり
して手に取りにくいなぁと思っていたところにこの本は
評判も上々で、しかも文庫化していてとりあえずこれ
1冊で読めそうだったので買いました。
今から数百年前の江戸の商家の日常を過不足ない説明と
描写でもって自然に入り込ませて読ませてくれます。
冒頭から若旦那が殺人を目撃してしまって、追われた
ところを妖怪に助けてもらいます。
ですが、このお話で印象深かったのは17才の若旦那の
虚弱ゆえの懊悩とそれに立ち向かおうとするその心の
葛藤とか揺れでした。妖怪は色々出てくるのですが、
肝心のいちばん側でお守りしているという『白沢』も
『犬神』も含めてその特徴というか、どんな妖怪なのかが
あまり描かれていないので、妖怪いっぱい不思議たっぷりを
期待するとやや拍子抜けしてしまうかも知れません。
その生まれ故に普通の人間の大きな商家の息子と
して日々経験すべきことをあまり出来ていない若旦那
ですが、人間と価値観の違う様々な妖怪たちが側に居ると
いう環境でそういう学ぶべきところはそれなりに学んで
いたり、自身の在り方も含めた精神的な強さはきちんと
持っていて、その辺りに好感を抱きます。読後感はとても
良い本でした。ある種の青春小説といってもいいかも
しれません。続編としてすでに『ぬしさま』という本が
出ているようなので近いうちに読みたいと思います。