鈍獣


ついにこの日がきました。
個人的に多分今年いちばん心待ちにしていた
芝居です。
神戸公演のマチネです。
帰ってきたら感想を書きたいと思います。

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9/11 14時開演 G列 20番


宮藤官九郎の脚本はずるい。
物語への求心力を回転によって高めながら
最後の最後にその手を放して観客を
すっ飛ばしてしまうからだ。
それは大抵『死』とか『狂気』という形で
表される。観客側の感情を登場人物をそういう
状況に置くことによって完全に遮断し、拒絶
してしまう。
それは私には時に物語を描いているのに、
そこから生まれる全てを否定しているように映り、
あまり好印象ではなかった。
遮断し、拒絶してしまうその瞬間までの物語に惹かれた
観客をバカにしているように感じたからだ。


今回の作品にも死なり狂気というものは物語の中に
色濃く表現されていた。
モラルとは縁遠い登場人物、ちいさな刺にも似た感情
表現や関係性の生臭さ、澱のように積もり粘る退廃感。
しかしそれらはあまり誇張されたところがなく感じて
しまうように描かれており、それら全てが大したこと
でもないように思えてくるところがタイトルである
"鈍い獣"に通じるのかもしれない。


嫌われてもしょうがないんじゃない?


死んじゃってもしょうがないんじゃない?


もうどうなってもいいんじゃない?


諦観よりももっと深く、どうしようもないどうにもなりよう
がないラストはしかし、奇妙な爽快感があって、心から
笑えないのに楽しくてしょうがなかった。

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物語を遮断、拒絶という形で終わらせるのではなく、
引き込んで共犯にするかのような感情にさせる物語を
私は宮藤脚本では初めて味わったので、今回の作品は
好きです。


キャストにはまったく何の不満もなく、ただただその至芸と
新鮮さを心ゆくまで堪能させてもらい、演出は脚本に合わ
せてしつこく重くて、現実と回想の行き来がスムーズでも
スマートでもなかったのが却って良かったと思います。