99年の愛

  • JAPANESE AMERICANS1話目。
  • 冒頭が何故か現在のMLBの球場の場面から始まり、年老いた夫婦と思しきふたりがイチローが活躍している試合を観戦しつつ誰かを待っている。
  • そのふたりは実は兄と義理の妹であり、そうしてそこへふたりを招待したのが70年音信不通だった兄の実の妹の嫁だったことから物語は彼らのさらに両親や兄の世代、おおよそ100年前の日本人がアメリカという国に如何にして渡り、暮らしていくようになったのかが語られていく。
  • 橋田さんの脚本が特に壮年以降の世代に支持されているのが何故かということが1話を観ていてよく判った。ラジオドラマにとても似ている。つまり、耳で台詞だけ追っていれば画面を観ずとも何が起きているのかがかなり解るのだ。画面での遊びや仕掛けをしないということは、ある意味ラクではあるし、安心感がある。これは特に最近の画面を見せてあるいは読ませて理解させようとする番組やドラマと真逆の手法であり、沈黙や登場人物の表情で読み取らせる、あるいはそれを観て解釈をさせるということを良しとしない物語造りなのである。
  • 橋田さんが観て、感じて思ったことを受け取り手である視聴者に語りかける登場人物は全て橋田さんの代弁者である。どんな物語もある程度はその要素があるが、それをここまであからさまに示している作品は現在、そうないように思う。
  • 主人公を演ずる草なぎ剛は、どちらかといえばその佇まいや台詞にない表情や動きに特徴や個性が感じられる役者であると私は思っていて、なのでこの作品の一話において自分の在りかたや生き方や感情を事細かに話し、語り、説明をする主人公の長吉という人物には今のところやや馴染みにくい。
  • ただ、ふとした瞬間、特に誰かの話を聞いているそのときの何も言わず語られる言葉を感じて、胸に浮かぶ思いを溜めていくその表情の豊かな変化や、アメリカという見知らぬ土地に立ち、ひとり見上げた空の広さを見つめる目や、生まれた子供を抱き暮れる夕陽の中に立つ後ろ姿にはハッとさせられるものがあった。
  • すべからく語り続ける登場人物の中では、市川右近演ずる主人公と同郷であり、後の洗濯屋の主人となる男がとてもよかった。長台詞に引きずられることなくその当時のあるべき姿をあるように演じているのだが、今の世にはあまり居ないと感じさせるいい意味での"昔の大人"だと思った。男であり、夫であり親である。その全てを過不足なく持っていた。
  • そうして、イモトアヤコ演ずる主人公の妻であるとものいつ、如何なるときもまっすぐに夫を見上げる迷いのない、嘘のない生命力に溢れる演技には鮮烈さとけなげさを強く感じた。
  • 実際、冒頭から小一時間の現在での登場人物のやりとりに閉口していたところにイモトアヤコのともが出てきた辺りから劇的に面白くなり、物語も動き出したように思う。
  • 一話の中で特に私が面白いと思ったのは、長吉とともの結婚式のシーンである。レンガ造りの教会風の建物の中が仏式の造りになっていて、紋付袴の長吉と和服姿のともが手を合わせて結婚を誓っている。そうして、参列者達は着物だったりドレスをまとっていて白いテーブルクロスをひいたその上にはワイングラスが並んで祝杯をあげる。和洋折衷というには本当に奇妙で、しかし、当時の日本人社会がどのようなコミュニティを築き、どのような結婚観、人生観を持っているのかということがとても端的にあのシーンで表されていたように感じた。
  • 物語は長吉とともが子供を授かり、二世となる子と土地を得ていよいよ根付いていこうとするところで続く。