月魚 (角川文庫)

月魚 (角川文庫)

この本を紹介して下さった
『本のはなし。』
さんは硬軟とりまぜて
色んなご本を教えて下さいます。


この本はその中で硬軟を言うなら多分軟。
繊細な文体の中にしなやかな強さがきちんと
描いてあってただ優しかったり甘かったりと
いうだけでない読後感の確かさがあります。


古本屋を営む本田真志喜と店は構えず
古本の卸で生計を立てる瀬名垣太一は幼なじみ。
このふたりの真夏の出会いと現在である真冬の描写、
随所に挿入されるふたりが抱える共通の過去の傷と
向き合いそうしてそれを克服していこうとする道程の
コントラストがとても鮮やかで印象的です。
本に対する愛情やお互いを思いあう心といった目に
見えないものの温度や、建物や自然、季節と時間の
描写の美しさが同じ目線で丁寧に紡ぐように描かれて
いてそれらが同時に在るその世界そのものが
心地よく感じられる文章です。